仕事が原因の心の病気で労災と認められたケースで、きっかけの出来事としていちばん多いのは「上司などからのパワーハラスメント」です。パワハラを防ぐことは、社員の心の不調を防ぐことに直結します。2022年4月からは、中小企業も含めたすべての会社に、パワハラを防ぐための措置が義務づけられています。このコラムでは、国の指針にそって、パワハラとは何か、会社がしなければならないこと、相談を受けたときの進め方をまとめます。
この記事でわかること
- パワハラが、働く人と職場にどれだけ影響しているか
- パワハラとは何か(3つの要素と6つの型)
- パワハラにあたる例・あたらない例(指導とのちがい)
- 会社がしなければならない4つのこと
- 相談を受けたときの進め方と、パワハラを生まない職場づくり
01パワハラは、心の不調の大きな原因です
国の調査では、パワハラについて次のような結果が出ています。
19.3%過去3年間に、勤め先でパワハラを受けた働く人
64.2%過去3年間に、パワハラの相談があった企業
222件心の病気の労災認定で、きっかけが「上司などからのパワハラ」だった件数(2025年度)
左と中央は国の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度。働く人8,000人と企業7,780社の回答)、右は国の「過労死等の労災補償状況」(2025年度)です。
同じ調査で、パワハラをした人は「上司(役員以外)」が65.7%、「会社の幹部(役員)」が24.7%でした。パワハラを受けたことによる影響は、「怒りや不満、不安などを感じた」(68.5%)、「仕事に対する意欲が減退した」(61.1%)が多くあげられています。
受けた人の3人に1人以上は、何もしていません
パワハラを受けたあとの行動でいちばん多いのは「何もしなかった」(36.9%)で、その理由は「何をしても解決にならないと思ったから」(65.6%)が最も多くなっています。会社が気づかないうちに、職場で問題が進んでいることがあります。
国の指針があげる「パワハラが引き起こす問題」
働く人の意欲の低下による職場環境の悪化、職場全体の生産性の低下、働く人の健康状態の悪化、休職や退職、そしてこれらにともなう経営的な損失などです。社長や役員も、自らの言動に注意を払うよう努めることとされています。
詳しくは『メンタル不調の労災申請、会社はどうする? 事業主の証明・意見の申し出・労基署の調査と、決定までに気をつけること』
02パワハラとは:3つの要素をすべて満たすもの
国の指針では、職場のパワハラを、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
優越的な関係を背景とした言動
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
働く人の就業環境が害されるもの
適正な指導は、パワハラではありません
客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラにあたりません。部下を指導すること自体をためらう必要はありません。
3つの要素の意味
- ①優越的な関係
- 上司から部下への言動だけではありません。仕事に必要な知識や経験が豊富で、その人の協力がないと仕事が進まない同僚や部下の言動、同僚や部下が集団で行い、抵抗しにくい言動も含まれます。
- ②必要かつ相当な範囲を超える
- 業務上明らかに必要のない言動、業務の目的から大きくはずれた言動、業務の手段として不適当な言動、回数や人数などが社会の常識で許される範囲を超える言動などです。言動の目的、相手の問題行動の有無、経緯や状況、頻度などを総合的に考えて判断します。
- ③就業環境が害される
- 体や心に苦痛を与えられて職場が不快なものになり、能力の発揮に大きな悪影響が出るなど、働くうえで見過ごせない支障が生じることです。「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断します。
「職場」と「労働者」の範囲
「職場」には、ふだん働く場所のほか、出張先、業務で使う車の中、取引先との打ち合わせの場所なども含まれます。勤務時間外の懇親の場なども、実質的に職務の延長と考えられるものは職場にあたることがあります。「労働者」は、正社員だけでなく、パートや契約社員も含むすべての社員です。派遣社員については、派遣先の会社も措置をとる必要があります。
036つの型と、あたる例・あたらない例
指針では、パワハラの代表的な型を6つに分け、それぞれ、あたると考えられる例と、あたらないと考えられる例を示しています。
| 型 | あたると考えられる例 | あたらないと考えられる例 |
|---|---|---|
| 身体的な攻撃暴行・傷害 | 殴る、蹴る。物を投げつける。 | 誤ってぶつかる。 |
| 精神的な攻撃脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 | 人格を否定する言動をする。必要以上に長い時間の厳しい叱責をくり返す。ほかの社員の前で、大声で威圧的に叱責することをくり返す。能力を否定し、ののしるようなメールを、本人を含む複数の社員に送る。 | 遅刻など社会的なルールを欠いた言動があり、何度注意しても改善しない社員に、一定程度強く注意する。業務の内容などからみて重大な問題行動をした社員に、一定程度強く注意する。 |
| 人間関係からの切り離し隔離・仲間外し・無視 | 意に沿わない社員を仕事から外し、長い期間、別室に隔離したり、自宅研修させたりする。一人の社員を同僚が集団で無視し、職場で孤立させる。 | 新しく採用した社員を育てるため、短い期間、集中的に別室で研修する。懲戒処分を受けた社員を通常の業務に戻す前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせる。 |
| 過大な要求明らかに不要なことや、できないことの強制・仕事の妨害 | 必要な教育をしないまま、新卒の社員にとうてい達成できない目標を課し、達成できないと厳しく叱責する。業務と関係のない私的な雑用を、むりやりさせる。 | 育てるために、今より少し高いレベルの仕事を任せる。繁忙期に、業務上の必要から、担当者にいつもより一定程度多い仕事を任せる。 |
| 過小な要求能力や経験とかけ離れた低い仕事を命じる・仕事を与えない | 管理職を辞めさせるため、誰でもできる仕事をさせる。気に入らない社員に、嫌がらせのために仕事を与えない。 | 能力に応じて、一定程度、仕事の内容や量を軽くする。 |
| 個の侵害私的なことに過度に立ち入る | 職場の外でも続けて監視したり、私物の写真を撮ったりする。性的指向・性自認や病歴、不妊治療などの、とくに慎重に扱うべき個人情報を、本人の了解なくほかの社員に暴露する。 | 配慮のために、家族の状況などを聞く。本人の了解を得て、病歴などを必要な範囲で人事の担当者に伝え、配慮をうながす。 |
国の指針の例をもとに、言葉をやさしくしました。例はこれだけに限られず、個別の事情によって判断が変わることもあります。
国の調査では、受けたパワハラの内容は「精神的な攻撃」(48.5%)が最も多く、次いで「過大な要求」(38.8%)でした。
心の不調の情報を広めることも、パワハラにあたります
「個の侵害」の例にあるように、病歴などを本人の了解なくほかの社員に広めることは、パワハラにあたると考えられます。心の不調で通院している、休んでいるといった健康の情報は、とくに慎重に扱い、知る必要のある人だけで扱います。
詳しくは『部下への注意・指導は、どこからパワハラ? 国の指針が示す線引きと、パワハラにならない注意のしかた』『不妊治療と仕事の両立、会社ができることは? 通院の負担と休み方・働き方の制度、不妊治療連絡カードの使い方』
04会社がしなければならない4つのこと
労働施策総合推進法 第31条で、事業主には、パワハラを防ぐために雇用管理上必要な措置をとることが義務づけられています。大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から義務になりました。社員の人数にかかわらず、すべての会社が対象です。
措置 1
方針を決めて、知らせる
- パワハラの内容と「パワハラをしてはならない」という方針をはっきりさせ、管理職を含む全員に知らせる
- パワハラをした人には厳しく対処する方針と、その内容(懲戒など)を就業規則などに定めて知らせる
措置 2
相談窓口をつくる
- 相談の担当者を決める、制度を設ける、外部に委託する、などの方法で窓口を決め、社員に知らせる
- 担当者が適切に対応できるよう、人事との連携のしくみ、対応のマニュアル、研修などを用意する
措置 3
起きたら、すぐに適切に対応する
- 事実関係をすばやく正確に確かめる
- 被害を受けた人への配慮と、行為者への措置を適正に行い、再発防止の措置をとる
措置 4
プライバシーを守り、不利益に扱わない
- 相談した人・行為者などのプライバシーを守る措置をとり、そのことを社員に知らせる
- 相談したことや事実確認に協力したことを理由に、解雇など不利益な扱いをしないことを定めて知らせる
国の指針の「事業主が雇用管理上講ずべき措置」を、4つにまとめました。どれも「しなければならない」措置です。
守らないと
国(都道府県労働局)は、会社に助言・指導・勧告をすることができ、勧告に従わないときは、その旨を公表できます(労働施策総合推進法 第42条)。国から報告を求められて、報告をしなかったり、うその報告をしたりすると、20万円以下の過料の対象です(第45条・第51条)。また、相談したことなどを理由に解雇など不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています(第31条第2項)。
条の番号は、2026年10月の法改正で、第30条の2から第31条に変わりました。
05相談を受けたときの進め方
パワハラの相談があったときに、会社がすることは次のとおりです。誰が何をするかを、前もって決めておきます。
- 1
話を聴く相談窓口
相談した人の心身の状況や、その言動をどう受け止めたかにも配慮しながら、話を聴きます。ハラスメントを受けた心理的な影響で、順序立てて話せないこともあるので、根気よく聴きます。相談した人が担当者の言動でさらに傷つく「二次被害」を防ぎます。
- 2
事実を確かめる相談窓口・人事
相談した人と行為者の双方から、事実を確かめます。話が食いちがうときは、ほかの社員などの第三者からも聴きます。確かめるのがむずかしいときは、労働局の調停など、中立な第三者機関にゆだねることもできます。
- 3
被害を受けた人に配慮する人事・上司・産業医
関係を改善するための援助、引き離すための配置転換、行為者の謝罪、労働条件の不利益の回復、管理監督者や産業保健スタッフによる心の不調への相談対応などを行います。
- 4
行為者に措置をとる人事
就業規則などにもとづいて、懲戒などの必要な措置をとります。あわせて、関係の改善の援助、配置転換、謝罪などを行います。
- 5
再発を防ぐ会社
パワハラをしてはならないという方針を改めて知らせ、研修などを改めて行います。パワハラの事実が確かめられなかったときも、同じように行います。
国の指針の例をもとにした流れです。
早めに動き、相談した人に伝える
国のパンフレットでは、相談を受けたあとに問題を放っておくと、問題が悪化して被害が広がることがあるため、初期の段階ですばやく対応することが必要だとしています。対応に時間がかかるときは、その状況と必要な期間を相談した人に伝え、会社としてどう判断し、どう対応するかも本人に伝えることが大切です。
パワハラか「微妙」でも、相談に応じます
指針では、パワハラが実際に起きている場合だけでなく、起きるおそれがある場合や、パワハラにあたるか微妙な場合でも、広く相談に応じて適切に対応することとしています。
被害を受けた社員は、心の不調をかかえていることがあります。上司が相談を受けたときの聴き方と、産業医へのつなぎ方は、次のコラムにまとめています。
詳しくは『部下からメンタル不調の相談を受けたら? 上司の話の聴き方と、産業医へのつなぎ方』
06パワハラを生まない職場づくり
指針では、パワハラが起きる原因や背景には、働く人どうしのコミュニケーションが少なくなっているなどの、職場環境の問題もあるとしています。4つの措置に加えて、次のような取り組みが「望ましい」とされています。
ストレスチェックの集団分析で、部署ごとに、上司や同僚からの支援の状況を見ることも、職場の人間関係を考える手がかりになります。
詳しくは『ストレスチェックの集団分析とは? 結果を職場の改善につなげる方法』衛生委員会の開き方:毎月の議題の例と、議事録の書き方
2026年10月から、カスタマーハラスメント対策も義務に
法律の改正で、2026年10月1日から、顧客や取引先などからの社会の常識を超えた言動(カスタマーハラスメント)と、就職活動中の学生など求職者へのセクシュアルハラスメントを防ぐ措置も、事業主の義務になりました。方針を決めて知らせる、相談体制をつくる、起きたらすばやく適切に対応する、といった措置で、パワハラと共通するところが多くあります。
詳しくはカスハラ対策の義務化とは? 2026年10月から、すべての会社がしなければならない10の措置『就活セクハラの防止が会社の義務に:面接・インターン・OB訪問で決めておくルールと相談窓口』『セクハラ・マタハラ防止措置とは? 会社の義務と、あたる例・あたらない例、相談を受けたときの対応』
07パワハラ対策のチェックリスト
会社の取り組みが、次のようになっているか確かめましょう。1〜6は、法律で会社がしなければならない措置の例です。
パワハラ対策のチェックリスト
- 1
パワハラの内容と「してはならない」という方針を、就業規則などではっきりさせた社内報や研修などで、管理職を含む全員に知らせます。
- 2
パワハラをした人への対処(懲戒など)を、就業規則などに定めた懲戒の規定にあたることをはっきりさせて、知らせます。
- 3
相談窓口の担当者を決め、社員に知らせた外部の機関に委託してもかまいません。
- 4
担当者のために、対応の流れと気をつけることをまとめたマニュアルや研修、人事と連携するしくみです。
- 5
事実の確認から再発防止まで、誰が何をするかを決めた事実が確かめられなかったときの再発防止も含めます。
- 6
プライバシーを守ることと、相談しても不利益な扱いをしないことを定め、知らせたパワハラが起きる前から、知らせておきます。
- 7
職場のコミュニケーションや業務の量など、原因となる環境を見直している法律では「望ましい」とされる取り組みです。
相談窓口や事実の確認は会社がすることですが、被害を受けた社員の心の不調への対応や、パワハラが起きにくい職場づくりには、産業医の目が役立ちます。
津山産業医事務所なら
- 1
心の不調が心配な社員の面談
高ストレスの方、休職・復職の前の方などの面談に対応します。訪問は14府県が中心で、オンラインの面談は全国に対応しています。
- 2
ストレスチェックから職場の改善まで
実施計画づくりから、部署ごとの結果分析にもとづく職場の改善の提案まで対応します。
- 3
委員会への出席や講話も
衛生委員会への出席や、衛生講話にも対応しています。50人未満の事業場のご相談も受けています。
おわりに
このコラムのまとめ
- 心の病気の労災で、きっかけとしていちばん多いのは「上司などからのパワハラ」です。
- パワハラは、優越的な関係・必要かつ相当な範囲を超える・就業環境が害される、の3つをすべて満たすものです。適正な指導はあたりません。
- 2022年4月から、中小企業も含めたすべての会社に、方針・相談窓口・事後の対応・プライバシーと不利益な扱いの禁止の4つの措置が義務です。
- 相談を受けたら、話を聴き、双方から事実を確かめ、被害者への配慮・行為者への措置・再発防止まで進めます。
- コミュニケーションや業務の量など、パワハラの背景にある職場の環境も見直しましょう。
パワハラを防ぐしくみは、社員が安心して力を出せる職場の土台です。方針と相談窓口を決め、相談があったときに動ける体制をふだんから整えておきましょう。
詳しくは社員のメンタル不調、会社は何をする? 予防から休職・復職までの全体
職場のメンタルヘルスのご相談は、津山産業医事務所へ
「パワハラの相談をした社員の心の不調が心配」「職場の雰囲気を良くしたい」という段階から、お気軽にご相談ください。
出典
- 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号、令和8年10月1日適用の版) 2(パワハラの内容と6つの型)、3(事業主等の責務)、4(講ずべき措置)、5(望ましい取組)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策パンフレット」(令和8年7月) パワーハラスメント、相談への対応の共通のポイント
- 厚生労働省「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(リーフレット)
- 厚生労働省「2022年(令和4年)4月1日より、『パワーハラスメント防止措置』が中小企業の事業主にも義務化されます!」(リーフレット)
- 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)」(令和7年8月訂正) 企業調査(相談の有無)、労働者調査(受けた経験・内容・行為者・心身への影響・受けた後の行動)
- 厚生労働省「令和7年度『過労死等の労災補償状況』」(令和8年7月) 精神障害に関する事案
- 法令:労働施策総合推進法 第31条・第32条・第37条・第42条・第45条・第51条(令和7年の改正後の条番号)、労働安全衛生法 第18条
このコラムは、2026年10月時点の内容で書いています。



